『エロゲーとわたし』 連載第十七回

 2000年8月23日。
 みなさんお久しぶりです。以前書いたときからもう三週間が経ってしまったのですね。月日の経つのはなんと速いのでしょう。物は壊れる人は死ぬ。行く年来る年。私のリスペクトしていたエロゲーの創作者が業界からサラバしたと聞いて、結構落ち込んだりしてました。
 もういくら待ってもあのゲームは出ないのか・・・と星が見えない夜空を見て溜息をついたりもして。
はふ。
 でも、その直後に評判のエロゲーをプレイして、年上の姉さんの格好良さに狙撃されて、その上何度も撃ち殺されて『エロゲーってやっぱぁ面白いぜよ!!』とあっさり立ち直りました。
立ち直るの早いです。

 さてさて、そんな訳で久しぶりの『エロゲーとわたし』第十七回!!

 『堕落の国のアンジー』の仕事が終わって、暫く経ったある日の事でした。何となく薄ぼんやりと過ごしていると、またもや社長に呼ばれたのです。きっとロクでも無い事に違いありません。
 例によって例の如く頭の中にドナドナを鳴り響かせながら出頭すると、呼ばれたのは僕だけでは無かったのです。キリヤマさんとHさんも呼ばれていたのです。
非道い目に遭うなら一人より三人の方がいいとか思ってしまった僕は、大したヘタレでした。

 キリヤマさんは言わずと知れた『MAID iN HEAVEN』の原画家。
 初登場のHさん(仮名)は妻子持ちでエロ漫画とセーラームーンをこよなく愛するディレクターでした。
打ち上げで二次会へ行く時には常に家へ連絡を入れる良きパパでもありました。でも鬼畜で貧乳好き。
 今から思えば、このセーラームーンを愛すると言うのがくせ者だったのですが・・・・・・。
 で、三人が揃った所で下った特命は『PILcaSEX』の作品の内一本を作れと言う物でした。
 こうして『輪恥』のプロジェクトは始まったのです。

 知っている方は知っていると思いますが『PILcaSEX』は五本の短いゲームからなる短編ゲーム集で、この時点で私の処女作である『犬』、田所さんの書く『SEEK』の後日談、長岡健蔵氏の看護婦さん物、田所さんのアイディアに基づいてのKさんが書く『無題』の四本が収録される事は決定していたのです。

 早速三人で打ち合わせを始めたのですが、降って湧いた話だったせいもあり、誰もアイディアを持っていません。意味無くだべっていたら、ふとした弾みでキリヤマさんが僕よりも年下な事が判明。ショック!! なんだか人生に敗北した感じがしました。長岡健蔵氏が年下な事を先日知ったばかりだったのでダブルショック!! ああ、彼らに比べて僕はなんて人生を空費してしまったんだろう・・・と意気消沈しているとHさんが、いつまでも考えも無しにだべっていても仕方が無いから、翌日までに個々人がアイディアを考えて持ち寄る事にしようと言うナイス提案をしてくれました。明日出来る事は明日やれば良いのです。

 さて、自分の机に戻り、キリヤマさんが年下である事に打ちのめされながら、つらつらとアイディアを八本ほどひねり出しました。
 そのうちの二本は、『犬』のアイディア出しの時に落ちたのを再生したもの、後のは一日ででっち上げた物でした。その中の一本が『輪恥』の元となるアイディアだったのです。

 その元アイディアのタイトルは・・・・・・

 『学級委員早由利、悪夢の恥辱LESSON。(フランス書院みたいな)』

 と言う、いかにも頭の悪い物だったのです。別アイディアであった『みみず農場の少女』よりはマシかもしれませんが・・・・・・。

 さて、その内容はと言えば『主人公は、学級委員である早由利の弱みを握って脅迫。そしてエロ肉地獄へと早由利を突き落とします。知的な学級委員でありクラスの人気者であった少女は忽ち男の欲望への捧げ物へと転落していきます。プレーヤーは何を早由利にさせるかをコマンド選択していく事でゲームを進行させて行きます。最初から全てのプレイのコマンドを選択できますが、最初から『野外全裸露出調教』や『野外全裸放尿』などの余りにディープな事をさせると警察に訴えられたり自殺されたりするバッドエンドになるので、そこは慎重に『教室で自慰』とかの軽いコマンドから少しずつ慣らしていかなければなりません。期間は一週間程度で、最後には早由利を見事肉奴隷に仕立ててクラスのペットにするエンドとなります』と言う単純明快な物でした。うむ鬼畜だ。

 目指したのはいかにもエロゲーらしいエロゲー。類型的な登場人物による、良くあるPLAYをお手軽にすると言うコンセプト。綺羅光、蘭光生、杉村春也つまりフランス書院文庫に代表される登場人物の名前が違うだけでやってることは同じ、と言う類のエロな話を目指したのです。短編だし、気楽な鬼畜物と言うのもそろそろやってみたいなぁ、と言う明快かつ安直な動機でした。題名もフランス書院っぽくつけました。

 それに、あいざわひろしの同人『詩織』みたいなのをゲームとして作りたい、と言うのもありました。『詩織』はクラスのアイドル詩織が島田と言う卑劣漢の罠にはまって、市販の単行本よりも遙かにねっちりしつこくいたぶられて墜ちていく、と言う我が心の同人誌です。コミケで唯一並んで買うと言う程好きです。
今年の夏コミでやっと第七章が発売されて、勿論並んで買いました。

 あいざわさんへ、何年かかってもいいから、ちゃんと最後まで書いてね。

 さて翌日。再び三人集合。キリヤマさんは一つもアイディアを持って来ず、Hさんは階層型ダンジョンRPGで規模が大き過ぎ、結局僕の持っていったアイディアの中から三つが選ばれ、更に検討の結果見事『悪夢の恥辱LESSON』が採用される事となったのです。もっとも最初の結末が一つでその課程だけが変化する一本道の話では二十五枚のグラフィックでは少なすぎると言う事で、マルチシナリオゲームに変更する事となりました。

 そんな訳で、僕は字コンテを提出しプロット作業に移り、キリヤマさんはキャラデザ、Hさんは絵コンテとそれぞれの作業に驀進したのです。
 だがHさんの内心で恐ろしい野望が燃えさかっていたのに僕は気付きませんでした。
 キリヤマさんから上がってきたキャラデザを見たら、いつの間にかキャラが貧乳キャラになっているじゃありませんか!! 巨乳好きなキリヤマさんが貧乳?
WHY? と聞くと、キリヤマさんはいつものどーでもいい、と言う投げ遣りな口調で、Hさんの指示だと言うのです。Hさんに何故貧乳に? と問い質すと、
『いじめられっこなんだから、儚い貧乳が良いよ』とあっさり言われてしまいました。当然だよ、と言う口調でした。
 でもこれじゃあ食い込み水着を着せてもあんまり面白くないなぁ。とは思いましたが、なんと言っても今回のディレクターはHさんです。それに言われてみれば確かに貧乳の眼鏡っ子と言うのはいかにもイジメテ光線を発していそうで、いいかもしれません。きっといいんでしょう。
 と僕が自分を納得させていると、Hさんはさりげなくつけたしました。
『早由利って言う名前もどうもイジメられっ子っぽく無いよ。もっと儚い名前がいいと思うんだ・・・蛍なんてどうかな?』

 蛍・・・・・・。

 確かに儚い名前です。蛍か・・・・・・・。
 僕はいいんじゃないですか、と答えてしまったのです。その瞬間眼鏡の奥のHさんの瞳がキラリと輝いたのを僕は気付かなかったのです。

 貧乳+イジメられっ子+蛍・・・実はコレはセーラームーンの土星だったのです!!
 だが当時僕はセーラームーンについて五人の女の子が変身するお話しで、良くエロ同人誌のネタにされていて、エンディングの『乙女のポリシー』がPILの社歌として愛唱されている。と言う程度の知識しかなかったのです。

 と言うわけでセーラームーンの狂信的ファンであるHさんの陰謀に僕がまんまと乗せられてしまったせいで、『輪恥』はセーラームーンのエロパロである、と後でユーザーに言われる羽目になってしまったのです。
 今更ですが、私自身にはそんな気は全くなかったのです。
 後でそれを知って『蛍』の名前を変えようとしたものの後の祭り、『蛍』の名前は頭の中に定着してしまって変える事が出来ない状態になっていました。やはりはやりのアニメくらい知っているべきですね。

 と、こんな所で今回はおしまいでーす。

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS        さーて来週の『エロゲーとわたし』は?

           そんな訳で天城蛍は誕生した!!
              だが、この少女。
        僕は気が強い吊り目キャラが好きさ、と言う
    シナリオライターの好みとは180度違う少女だったのだ!!
            余りの蛍のはきつかなさに
            苦悩するシナリオライター
      そして苦悩の余りシナリオライターに宿る暗い情念

       こんな女不幸のずんどこになればいいんだ!!

          ああ、蛍の不幸は続くよどこまでも。

        そんな訳で『蛍地獄変!!』で来週もよろしく。

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