2000年3月23日。
今週末もエロゲー4本と、PSのギャルゲーを一本買う馬鹿な私。 さて、もう六年前か七年前だったか正確な事は忘れたが、私はコンシューマーゲーム会社に勤務していた。私の直属の上司が、私を地下の防音室に呼んで気が進まなそうな口調で切り出したのは、工場に転属せよ、という内示だった。上司は気の毒そうな顔をして私を見ていた。
文系の大学をなんとか卒業した私は、バブルのおこぼれに預かって、文系学生の癖にプログラマーとして其の会社に入社した。そして三ヶ月の研修を経た後、時代遅れの基盤を処理するプロジェクトに配属されたのだった。
時代遅れの基盤と言うのは、性能的に一昔前の基盤で、勿論先端のゲームなんざ組み込め無い基盤の事である。ぶっちゃけた話、あてが外れて売れ残った駄目ゲーである。
だが、ただ廃棄するのは会社的に損失にしかならないので、その基盤で動く程度のゲームをでっちあげて利益を生み出す訳だ。基盤は既に倉庫に山と積まれており準備万端、会社にとってコストはとても安くリスクも小さい。
その部署では、まず、当時制作が終わりに近づいて居た心理クイズゲームのプロジェクトに参加した。クイズを一定数クリアすると心理テストが受けられる、というゲームである。心理テストの問題を幾つかとクイズをいくつか制作した。
バグチェックもやった。心理テストを心理学の素養の無い新入社員に作らせるのだから、如何にチープなプロジェクトであったがが良く解ると言う物だ。
入社早々、先輩プログラマーが電撃的に退社するという衝撃的な事件があった。
当時私は安定した生活に憧れていたので、一旦会社へ入ったら死ぬまで居る物だと思っていた。
人が辞めてしまうなんて凄い所へ来てしまった、と思った。なんてウブだったのだろう!!
そのゲームは、かなり好評で、さっそくパート2の制作が始まった。またもや心理テストを何問か作成した。本職はプログラマーだったが、ここで私は遺憾なく無能ぶりを発揮し、ゲーム完成と同時に職種が企画へと変更された。
このゲームも、そこそこは売れた。
さて、次の企画はミニゲーム集だった。プロジェクトに与えられた基盤は、やはり時代遅れの基盤だった。プロジェクトの参加メンバーは、『モンティパイソン』や『ウゴウゴ・ルーガ』のビデオを繰り返し見て研究した。私は楽しくてたまらなくて、ビデオを見ては笑い、会議の時にも笑い、ミニゲームのアイデアを考えては笑い、同僚からミニゲームのアイデアを聞かされては笑い。結局、いつもゲラゲラ笑っていた。ミニゲームはどれも変で、プレイヤーが操作するキャラクターも、ふにゃふにゃした線画でイカしていた。
で、ミニゲームが数個出来、これからは笑ってられなくなるぞ、と言う所で上司に呼ばれたのである。
前兆はあった。会社で居眠りをしていて目覚めると、背後に社長が立っていた事が数度在ったし、その直前に出たボーナスの額も異様に少なかった。会社が自分を評価していない事は良く解っていた。自分でも内心駄目社員だと思ってもいた。会社内でリストラが始まってもいたから、そろそろ危ない気はしていた。だが、このプロジェクトが終わるまでは大丈夫、と思っていたからショックだった。
工場で基盤を溶接したり検品したり修理したりする・・・と言うのには全く魅力を感じなかった。工場に行った人間が企画に戻れるか、と上司に尋ねたら、万に一つくらいは在るかもしれない、と矢張り気の毒そうな顔で私を見て上司は答えた。だがその目は、万に一つも無い、と語っていた。正直な人だなと思った。
私は、一晩か二晩もんもんと考えた末に、辞めることを決めた。
何かあてがあるわけでは無かったし、工場に転属すれば給料は出るわけだし、それなりに順応出来る自信もあった。私は周りの環境を変えようと努力するより、周りの環境に流される性格だから、それなりになるだろうとも思っていた。
だが、嫌だった。本当にそれだけだった。それに辞めると言う初体験の予感に興奮していたのかもしれない。辞表を叩き付けてやるなんて、なんてドラマチックアドベンチャーなのだろう!! そんなドラマみたいな事を自分がするなんてと、どこか酔っぱらっていたのかもしれない。馬鹿である。
辞表を出す時、どきどきしたが、部長の反応は何も無かった。それはそうだろう。辞めさせる為に部署替えをしたのだから当然だ。もし辞めなければ工場の労働力が増えてそれはそれで良し、辞めれば辞めたで無能な社員が一人逃げ出した所で痛くも痒くもない。自分から辞めたのだ、という形にした方が、会社としても金がかからないのだから、どう転んで会社の思うつぼだったのだ。
この世の中、踊っているのでないならば踊らされているのだ。それどころか踊っているつもりで踊らされているのだ。
直属の上司は、私の決意を疲れた顔で聞いていた。間に立つ者はいつの時代も気の毒な物だ。
その後、10日ばかり引継の為の仕事をした。なぜか眠たくなる事もなく、やたらとはかどった。決断をしてしがらみが消えてすっきりしてしまったのだろう。
今までもこれくらい仕事をしていれば辞めさせられなかったでしょうね。と直属の上司に言ったら、上司は哀しそうに笑った。
私が会社を辞めると告げた時、母親はまじまじとした顔でこちらを見ると、溜息をついた。小中高大と一貫して期待を裏切り続けた結果、親もあるていど諦めがついたのだろう。だが生活費は家に入れ続けるように、とは申し渡された。
そういう訳で、私は前居た会社を辞めたのだった。
失業生活が始まった。
毎朝歩いて日比谷図書館へ行き、午後2時頃まで読書に励み、その後、平将門の首塚にお詣りしてから神保町で立ち読み三昧な時間を過ごし、午後5時頃、神保町から歩いて家に帰るという規則正しい生活だった。良く歩いて健康的だった。
たまに職安へ行ったが、仕事を捜す訳でもなかった。職安職員に希望する職種は、と聞かれてゲームの企画です、と答えたら一般事務職に変える様に執拗に説得された、だが他の職業をやりたいとはどうしても思えなかった。
なぜあんなにこだわったのだろう? 単に面倒くさかったのだと思う。ゲームの企画屋というマイナーな職業なら職安に職場を紹介される事もないだろうと言う小狡い計算もあった。
『スレーヤーズ』『銀河無責任男シリーズ』『グインサーガ』などなど、時間と暇がないと読破できないシリーズを立ち読みのみで連破した。
だが、依然として何もする気が起きなかった。
しかも、こういう生活でも金がかからないという訳では無かった。勤務していた間に貯めていた貯金は、毎月じわじわと減っていき、いつまでもこんな事をしていられないのは解っていた。解ってはいたが何もしなかった。
相変わらず私は本を買ったりエロゲーを買ったりしていた。あんまりにもお金がない月には、いらないCDや本を売り飛ばして金にした。CDは結構いい金になる。一枚500円くらいだから20枚持っていけば一万円にはなった。
夢現の約一年の歳月ののち、破滅の足音が近づいてきた。
貯金が底をつき、手続きの遅れで漸く貰える事になった失業保険も、そう長くは貰えない。エロゲーなんぞやってる場合では無かった。
私は、しぶしぶながら就職の事を真剣に考え始めた。
だが客商売は駄目で、経理も解らないし、簿記などの特殊能力もない。下っ端事務員となるかゲーム会社に潜り込むかしかない。だが一般会社には適応できる自信は無かった。となれば一般的でない会社に入るしかない。
しかも、その時、私はエロゲーの企画を一本遊びで書いていたのだ。
こいつを使えば、どこかに入れるのでは・・・と私のゴーストが囁いた。
と言う所で今回はおしまい。
うーむ、入社する所までは書けなかったか・・・・・・・。
では、なるべく近い内に、また書くので、見捨てないでやってください。
BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。
PS
次回予告!!
就職を決意した私は、なぜかエロゲーの企画を持っていた。
だが、なぜそんな物を突発的に書いたのか!?
そもそも、なぜ失業中もエロゲーを買ってプレイしていたのか!?
エロゲーと私は、いつどうして出会ってしまったのか?
そんな読者の疑問を解消する連載第参回!!
あの日あの時あの場所で
『○トロベリー○戦略』に会っていなければ
僕らはいつまでも見知らぬ他人のまま・・・
こう御期待!!
|