『エロゲーとわたし』 連載第五回

 『エロゲーとわたし』 連載第五回

 2000年4月20日。

 ハラショー。さぁみんな元気かな!! エロゲーとわたしの時間だよぉ。先週は大人の事情でお休みだったけど、今週はばーんばーん飛ばすから見捨てないでくださいませでス。

 さて先週の続き。

「こっこれは『電撃ナース』!? なぜ、こんな所に?」
 と言うわたしの問いに、怪しい男から返って来た答えは、
「ああ、それ俺が作ったんだ」
 だったのです。

 あの滅茶苦茶面白い、お馬鹿なゲームの作者が目の前にぃぃぃぃっっ!?

 世界は一変した。目の前にいる怪しい男は、目の前にいる凄い人に180度大転換。わたしの脳内のリミッターは瞬時にして焼き切れて、逃げたいなんて気持ちも吹き飛んでしまった。
 わたしは熱く暑く暑苦しく厚かましく喋りまくった。喋った内容は全く覚えていない。恐らくエロゲーについてだったのだろう。はっきりと覚えているのは、滅茶苦茶に興奮していたと言う事だけである。勿論、相手にどんな印象を与えているかなど考えもしなかった。会社の面接などと言う重要な時に、ミーハーな本性を爆発させるなど、はっきり言って社会人失格である。
 その時、田所さんから見てわたしがどう見えたかと言えば、危ない変人だが、どこか面白いという物だったらしい、後の本人の口から聞いた。
 履歴書と企画書を渡して会社を辞去したわたしの興奮はすぐに醒め、直ぐにどす黒い後悔に襲われた。とぼとぼと家への道を辿りながら、初対面の人間に対してあの態度はマズ過ぎたのでは無いか? きっと駄目に違いない。と言うネガティブな事ばかりが頭を占領していた。家についた頃には落ちたというのが確信になっていた。
 もうこりゃ駄目だ、と思ったわたしは、別の就職先を目指す事にした。映画マニアと言うほどでは無いが映画が好きだったので、「ぴ○、フィルムフェスティバル事務局」の事務員募集に応募してみる事にした。その頃になると大分落ち着いて来て、SM専門ブランドに入社できなくて結果としては良かったんじゃないかと自分を納得させていた。取れない葡萄は、いつでも酸っぱいのだ。
 そんなこんなで一週間ほどが経った。とりあえず結果を訊くために歩いてストーンヘッズへ向かった。暑い日だった様な気がするが、最早記憶は定かでない。
 田所さんは、わたしの企画書の内容は、鬼畜さと言う点では悪くないが、序盤の展開がたるく、ソフ倫の規定にも抵触している上に、ラストのカタルシスが無いのが駄目だと言われた。感想を聞けたのは嬉しかったが、結局は駄目なんだな
といじけていると、応募してきた人間の中で、エロゲーの企画を持ってきた人は珍しく、鬼畜ゲームの企画は更に珍しいと言われた。
 意外だった。エロゲー会社へ応募するのに、何故エロゲーの企画を持って来ないのだろうか? それは相手を馬鹿にしていると言う物だ。そういう人は、エロに触れるのも書くのも考えるのも嫌だ、と思っているのだろうか? エロゲー好きなわたしにはピンと来ない話だった。ただ世の中は訳がわからんと思った。
 結果は外注で書いてみませんか、という物だった。わたしは返事を躊躇した。
SM専門ブランドと言うのに抵抗感があったし、「ぴ○フィルムフェスティバル事務局」の結果も出ていなかった。田所さんに対する恐怖は薄らいだが、会社全体の雰囲気はやはり危険でいかがわしく、SMソフトハウスより、事務局の方がいいだろう、と考えていたのだ。
 しばらく経って『ぴ○』から結果が来た。
 爆沈だった。もはや選択の余地は無かった。
 わたしは再々度ストーンヘッズへ向かった。相変わらず怪しげな世界だった。
 外注といっても直ぐにお金が貰える訳では無かった。田所さんから言いつかった仕事は、小規模なゲームが5本入ったオムニバスゲームのうちの一本の企画を出してくれ、という物だった。わたしの他にも数人の外注候補がいて、同じ課題を出された様だった。見えない敵を想像してわたしは不安だった。こういう会社へ応募してくるのだから皆エロゲー魔道に落ちた勇者達だろう。そいつらに勝てるか? と始まる前から敗北感があった。しかもその時点でわたしは、提出した外道なゲームの企画書以外、なにひとつゲームのネタを持っていなかった。
 いつもなら戦う前にネガティブ地獄に堕ちる所だったが、今のわたしには取り敢えず挑戦する以外手が無かった。失業保険も切れる寸前だったし、舌先三寸で買わされた高価な物のローンも払う必要があった。今もって、なぜあんな物を買ったのか解らない。今では押入の肥やしになっていて出す気にもならない。わたしが馬鹿だったと言うだけの話だ。
 一週間、日比谷図書館や家で無い知恵を絞ったあげく、7本の企画をひねり出した。人体改造物、マッドサイエンティスト物。アイドル物。調教された美少女物。飼われている美少女物。孤独に気が狂いそうな男が主人公の物、不条理物の6本だった。
 一つ一つをレポート用紙1〜2枚に纏めた。我ながら汚い字だと思ったが、それでも自分的には其れ以上綺麗には書けなかったので諦めて、またもやストーンヘッズへ向かった。パソコンを持っていた癖に、パソコン上で書いてフロッピーで持ってくるという知恵は浮かばなかった。何故なら、その時点のわたしにとってパソコンはゲーム機で、それ以外の機能があるなど考えもしなかったからだ。
 企画の内3つはありふれている、と言う事で振り落とされ、人体改造物は社会的にまずい、と言う事であきらめさせられ、3本を更に練るようにと言われた。
残ったのは、アイドル物。不条理物。飼われている美少女物の3本だった。この内の不条理物が『PIL caSEX』に収録された『犬』の原型であった。
 この時点のプロットは製品版と大分異なる。
 突然犬として飼われることになったヒロインが、主人公に犬として扱われる内にその運命を受け入れていくという物だった。突然犬にされる、という展開は面白いが、女の子が犬にされるというのはありふれているので何とかしろ、と言うのが田所さんの注文だった。頭が痛かったが、笑って承諾した。
 更に一週間後、上記の3本+『廃部になった筈の相撲部の活動に巻き込まれ、まわしひとつで土俵入りをさせられたあげく、むくつけき部員達に稽古と称して輪姦されまくって、その快感が忘れられなくなる女子大生の話』という、どう考えてもギャクにしか成っていない企画を持っていった。勿論、本人は大まじめだったが、この企画は一笑に付されただけだった。後で事務の女の人が「あれは笑えた」と言ってくれたのが唯一の慰めだった。題名は『被虐部屋』だったと思う。
 この時点で『犬』とアイドル物が残った。犬のストーリーは田所さんの注文に従って大幅に変わっていた。
 ある日、主人公は犬として姉妹に飼われる事になる。姉の性格はきつく主人公を性の玩具として扱い。心優しい妹は主人公を世話する。世話している内に、SEXしてしまい、徐々に性の快楽にはまっていくが、それを姉に見つかり、前々から妹を憎んでいた姉は、それをネタに妹を脅して、妹も犬にしてしまう。最後、妹は主人公は客の前で羞恥に震えながら獣姦ショーをする。その姿に主人公は無上のエクスタシーを感じる・・・と言うような話に成っていた。
 この時点では主人公は、犬である自分に疑問を持ってはいなかった。もう一ひねり欲しいと言われた。それに女の子の数が足りないとも言われた。ああ、こういうのが商品を作るという事なんだなと思った。確かに姉妹の母を含めて3人では少なかろう。納得はしたがキャラ立てをする自信は無かった。
 でも、やるしかないのだ。とりあえずプロットを書けばいい、どうせシナリオは別の人が書くのだと思っていた。失業して、金もなくなっていたくせに、まだまだ甘いわたし。

 更に更に一週間後、わたしが出したプロットがゲーム版とほぼ同じ『犬』だった。この時点でアイドル物は脱落し『犬』が残った。
 わたしは外注としてストーンヘッズと正式の契約を結んだ。

 というわけで、今回はここで時間で御座います。
 では、また来週!!

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
          『犬』のプロットが通って喜ぶわたし。
           だが、それは序章に過ぎなかった。
            前代未聞の試練がわたしを襲う。
          だが、契約金を貰うには、挑むしかない。
           キーボードの前での戦いが始まる!!

              次回にご期待下さい!!

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