『エロゲーとわたし』 連載第八回

 2000年5月18日。

 この連載もついに第8回。約二ヶ月目って所ですか。

 さっそく始めましょうか。

 始めてストーンヘッズに出勤した日の事を思い出そうとするのだが、実は良く覚えていない。どんな天気だったかすらあやふやだ。
 迷子になるとか、そういう心温まるエピソードは全くなかった。外注時代にも何度か行っていたので今更迷い事など無かった。つまらない。
 席を与えて貰って、全員に挨拶をした事は覚えているのだけど、何処で誰とどんな挨拶をしたかという基本的5W1Hを覚えていない。こんな事では立派なルポライターにはなれない。街の片隅にある渋いバーには、10年ぶりに行っても、「いつもの奴」で通じる、伝説のバーテンダーがいたりするらしいが、これではバーテンにはなれそうも無い。シェーカー振ったら破壊する自信はあるのだが。

 おそらく、キリヤマさんはぼそぼそと挨拶したのだろうし、MR。Zは素っ気なかったのだろうし、めーるさんは忙しそうだった様な気がする。
 全員が、経験を山ほど積んだ老獪な人間に見えた。自慢じゃ無いが童顔なので、常に幼く見えるのを自覚しているから、他人の押しに弱いのだ。しかも可愛い童顔でなく、単にとっぽい坊やな顔なので、より一層つらいなぁ。

 与えられた席は、四畳ほどの部屋の隅の窓際の席だった。
 なぜか同室の二人はプログラマー。
 恐らく、部屋の主である猫田さんが煙草を吸わないので、この部屋に押し込められたのだろう。
 猫田さんの机の前には、様々なコンピューターのパーツが組み合わさった山がそびえ立ち、横にある押入は開いていて、TVがでーんと置いてあり、更にその周りには、如何にも趣味の人っぽいアニメのビデオやゲームが積み重なって入れられていた。そして所構わず積み重なった本の類も、まにーでディープな傾向だったのだ。
 どう見ても、オがついてタがついてクがつく人だった。こちらとて人の事は言えないが、そうとしか見えなかったのだから仕方が無い。
 もっともも、かなり趣味の傾向が似ていると言うのは後で判明した事で、この時は、質量があって怖そうな人だ、と言う感想だった様な気がする。

 結局、ここで「敵は海賊」「聖戦士ダンバイン」「新世紀エヴァンゲリオン」等のアニメを見ることになるのだ。
 それから猫砂が入った猫トイレもあった。実は動物が余り好きでないので、見たときは可成りいやーな気分がしたというのも時効なので書いておこう。
 猫の名前は「未玖」だった。いや、この時はまだいなかったか・・・?

 所在なげに座って、ぼぉっとしていると、早速田所さんに仕事を貰った。
 いや、それとも仕事を渡してくれたのは、MR。Zだったか、猫田さんだったか・・・まぁとにかく仕事を貰った。
 私の仕事は、今まさにPILで制作中だった「学園ソドム」のデバックだったのだ。
確か前半・・・警察が学校へ来るまでしか出来ていなかった気がする。選択肢のタイマーはついていた様な気がする。いや、ついていなかったか。
 気がする気がするばっかりで、本当にすいません。
 取り敢えず、選択肢を一通りプレイする事になった。確かこの時点では、リストファイルは渡して貰って無かった・・・筈だ。

 さぁて、リストファイルはなんざんしょ? とお嘆きの読者もいられると思うので説明すると、リストファイルと言うのは、ゲームのテキストや命令文やマクロを全てプリントアウトした紙の束です。
 規模のでかいゲームなら、リストファイルも当然巨大。小さければそれなりに。
 バグチェックが進み、ゲームが直るに従って、新たな変更分をチェックする為に、また新しいリストファイルをプリントアウトする事になります。
 古いリストファイルは裏紙として使うので、ひとつのゲームが完成する度に、膨大な量の裏紙が発生する事になります。昔の人はOA化でオフィスから紙が無くなるなどという素晴らしい事をのたまいましたが、全然嘘です。紙は増える一方です。このリストファイルに修正個所などを紅ペンで書き加えたり、びしっと付箋をつけて「ここが間違えだよぉ」と記録して置いたりする訳です。
 この付箋が全部取れればバグチェックは終わりです。もっとも現実はそうすんなりとは行かず、付箋が全部取れた後でバグが見つかったりするのですが。
 結構アナログで手作業なんですよ、この業界。通販だって社員総出で箱詰め梱包するくらいだしね。

 そんな訳で「学園ソドム」を始めたのだが、これが凄かった。
 「サ○ラ大○」に先んじたタイマー制限のシステムで選択肢選びはどっきどきだったし、今でも滅多にお目にかかれない程、鬼畜で外道な展開に心わくわくして夢中になってプレイした物です。灰田は颯爽と鬼畜だし、お堅い先生は派手な下着をつけているし、義妹の未玖は五月蠅く騒いで事態を悪化させ殴ってやりたいと思うくらい可愛いし。
 おおおおおおおおおおお!! これは凄いぜ!! 興奮興奮また興奮!!
 あっという間に警官が学校へやって来て、さてこれからと言う展開。
 取り敢えず渡されたバージョンだとこれで終わり。

 定時の退社時刻近くに、ひょろり、と部屋へやって来た田所さんに感想を聞かれて、
「とても、おもしろいです!!」と興奮して応え、「この続きは無いんですか?」と先を知りたい一心で無邪気に訊いたら、まだ出来ていない、という返事が返ってきた。
 一瞬、これは大変な事なのではないか、と言う疑念が頭を過ぎった。

 こうして、ストーンヘッズ試用社員のしての一日目は暮れていったのでした。

 で、今週は、これにておしまい。

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
           なんだか楽しかった初日のデバック
           だが、それは最初の内だけだった!!
             遅々として進まないシナリオ。
          繰り返し過ぎて、頭が怪訝しくなってくる作業。
           バグチェックの悪夢は始まった許りだった。

            ああ、このリストチェックしてない!!
              怠惰に流れそうになる神経は
               容赦なくミスを連発する。
            ここチェックした筈なのにバグがぁ!!

               いつになったら終わるのか?

              次回をお楽しみにしてください。
                 見捨てないでね。

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