『エロゲーとわたし』 連載第十回

 2000年6月1日。

 毎週毎週飽きもせずエロゲーを買い続けて、はや幾年。
 死ぬまで続く大行進となりますか。
 エロゲーに飽きるのが先か、わたしが駄目になるのが先か、
 老人ホームでもエロゲーやり続けられたら幸せと言うもんだ。
 死ぬときは虚空でマウスをクリックする手つきをしながら死んでいくのだ。
 うーんエロゲー馬鹿一代って感じ。

 ここに宣言しよう!! 今月の予定ではエロゲーを六本買います!!
 何を買うかは秘密なのだ。他社の宣伝する訳にもいかないし。

 さて、先週の続き!!
 疾風怒濤の『学園ソドム』のデバッグが終わり、俺はすっかりだらけていた。
『SEX2』をどう書こうかと、松葉崩しに騎乗位に木の葉落としに手押し車、駅弁ファックに、お風呂プレイと、体位やプレイをつれづれに考えては、アイデアメモなど打ちつつも、定時に出社、定時に退社と、ひねもすのたりのたりかな。
 確か『新世紀エヴァンゲリオン』の第一回を、会社で見たのはこの時期だった様な気がする。もちっと後だったかな。

 水没した街に現れた巨大な影。使徒。
 初回から謎また謎で飛ばす息詰まる展開。
 TVアニメでドキドキしたのは、『ニルスの不思議な旅』以来だった。
 そんな訳でエヴァには、どっぷりとのめり込んで劇場版まで付き合う事になる
のだが。それはまた別の話だ。

 そんな平和な日々に使徒の如く現れたのが『スーパーエレクト大戦SEX』のお仕事だった。
 入社前から言われていたので慌てず騒がず泰然自若。俺は猫田さんからキャラの設定と、エロシーンの原画のコピーを貰って目を通した。
 ついに入社してから始めてシナリオに関わるのだと思うと、気持ちが昂ってくるのを抑えられない。
もっとも書くのはエロシーンだけだけど。

 『スーパーエレクト大戦SEX』(以降『エレクト大戦』)は、マップをクリアしていく事で話を進めていくSLGである。ふむふむ。
 スタート時点での自軍ユニットは主人公+少女三人。ここから各面をクリアしていくに連れてユニットは増えていき、最終的には19人の少女をユニットとする事が出来る。なるほど。
 出てくる女の子達は、みんなそれぞれ違う部活に属していて、属している部によって戦闘方式が違う。料理同好会はフライパンを投げて、SM同好会は鞭を振り回すなどなど、名前と一致して実に解りやすい具合。
 戦闘中、主人公が女の子とキスやHをする事で、女の子のHPが回復する上に、エロイグラフィックまで見る事が出来るのだ。

 面白そうだと思ったものの、どうせメインシナリオは俺にゃ関係ない。俺が書くのはエロシーン。しかも全員じゃ無い筈。で当然の質問。
「・・・この中で一体どの女の子のエロシーンを書けばいいんでしょうか?」
 書き易い性格の子がいいなぁ。出来るならこの子とこの子・・・とか都合のいい希望に胸を膨らませていると、猫田さんは事も無げに、
「全員だよ。全員」
 ばっさりと返されて、余りに話が違うので、一瞬だけ茫然自失。
「全員ですか・・・」
 だが、何故か気分は悪くなかった。
 エロだろうがなんだろうが、またシナリオが書けるのだ。なんて前向きな俺。
今なら「はぁ・・・話違いますけど・・・」くらいは言うに違い無い。
 だが、当時の俺は燃えていた。例えるなら人間機関車。
 数人と全員では大違いだが、『犬』だってなんとかなったのだから、今度もなんとかなるだろう。この辺は前向きなんだが馬鹿なんだが・・・・・・。

 んで次の次の日。
 メインのシナリオライターが書きかけていたエロシーンを参考に、うんうんと唸りながらエロシーンを書いていると、また猫田さんに声をかけられた。
 仕事の進み具合を訊かれたので、全然進んでいなかったが、
「まぁ、なんとか進んでいます」
 とピノキオの鼻も伸びる勢いで答える。
 すると猫田さんは、実は優先してやって貰いたい仕事が出来た、とか言う。
 なんだろうと、疑問符を顔に浮かべていると
「明日までに『エレクト大戦』のメインストーリーのコンテを10枚分出して」
 とのお達し。
 事態は何故か急転直下に突然緊迫。
「あ・・・あの、それは、どういう事なんでしょうか?」
 余りにも話が大きすぎて思わず聞き返すと。
「だから、エロシーン以外の40枚のグラフィック中の10枚を、どう言う絵にするか決めてっていう事だよ。なんでもいいから発注しなくちゃならないんだ」
「でも・・・絵の発注の元になるメインのプロットは・・・?」
 何か目に見えない巨大な物が地平線の彼方からひたひたと押し寄せてくる。
「勿論、まるちゃんが書くんだよ」
 決定的な言葉であった。

 つまり『エレクト大戦』のシナリオを俺が書くって事だ。

 どうしてこういう事になったかと言えば、まず、エロシーンの原画を描いた人が、色々と行き違いがあって捕まらなくなった。
 しかも塗りから逆算してタイムリミットは迫ってきていて、間に合わせるには、社内の原画家に残りの原画を描いて貰うしかない。
 だが、そうしようにも元になるコンテが無い。
 前任のシナリオライターは、苦心惨憺のあげく、ついに匙を投げてしまった。
 その結果メインストーリーは、全く出来ていない。
 となれば、取り敢えず誰かにシナリオを書かせるしか無いのだが、会社中を見た所、手が空いている人間は半人前の俺しかいなかった、という訳だ。
 将に青天の霹靂。

 だが、余りにも衝撃が大きすぎて判断力のブレーカーが飛んだのか、それとも当時の俺が若かったからか、話が違いすぎるという事に対して抗議なんか浮かばなかった。勿論断ろうなんて事は、これっぽっちも浮かばない。
 めくるめく様な高揚感と共に頭に浮かんだ言葉は、ただひとつ!!

 ちゃーんす!!

 だったのだ!!

 確かに期間はタイトで、いきなり崖っぷちに立たされる話だ。
 だが入社して二ヶ月、しかも未だ試用期間中、海の物とも山のものともつかぬ新米が、グラフィック総数一五〇枚(小さい絵も含めて)のゲームのシナリオ一本丸ごと書かせて貰えるとは、他に人がいないからとはいえ、棚からぼた餅のビッグチャンス!! これで引き受けなきゃエロゲーシナリオライターじゃない!!
 失業中、天神様にお賽銭を上げていた甲斐があったというものだ。
 見事書き上げた暁には、一気に正社員!! 野望の王国に驀進だ!!
 先の事は先の事で、取り敢えず僕は燃え上がったのだ。

 ってな具合の運命の悪戯から、俺の長編デビュー作は、SMが殆ど出てこない、戦略SLGとなったのだ。左様言えば『ストロベリー大戦略』もSLGだった。

 で、今週は、これにておしまい。
 ゴーチャンの事は来週って事で許して下さい。

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
          文字通り降って湧いた『エレクト大戦』
               原画家は失踪し
          シナリオライターは匙を投げた荒野に
          たったひとり立つ新米シナリオライター
                 そう
           青年はいつでも荒野を目指すのだ!!
             デビルイアーは地獄耳!!

            勢いだけ在るが、経験も技術もない
          新米シナリオライターの明日はどっちだ?

         次回。キリヤマ太一と銭ゲバ婆といちごちゃん

               見捨てないでね。

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