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●  『仏蘭西少女開発回想録』 第23回(最終回)

みなさんこんにちは。
ストーンヘッズディレクターの三ツ矢新です。

先日、ひょんなことから纏まった数(3桁代)の梱包作業をしました。
数が多いから当然長時間の単純作業になるんですが、
こういう時に、退屈だからといってついつい物思いに耽ったりしても、
ロクなことを考えません。

きっかけは些細なことだったんです。
繰り返しの作業をしてるうちに、手首が痛くなっちゃって。

……
…………
………………

ああ手首痛いなぁ。手首かあ。手の首ねえ。
名前付けた人も上手いこと付けたもんだね、どうも。
手首が首なら、手は頭か。
なるほどなるほど。

……いやちょっと待てよ。
じゃあ乳首はどうなるんだ。
乳首に対する頭は……乳頭か。
そうか、そうだよなぁ。
いや、そうじゃじゃねぇよ。
どこからが乳首でどこからが乳頭なんだよ。
手首に対する手が頭であるような、明確なモノが乳首と乳頭には無いじゃない。
裾野は乳輪でしょ?
あそこは乳首でも乳頭でもないよな。
だったらなんですか、
あれは言葉遊びの部類で乳頭は実態の無いイリュージョンなのか。
そんなわけないでしょう。

あぁ、気になる。
こういう仕事に就いてながら、俺は今の今まで乳首と乳頭を区別できないでいたのだ。
恥ずかしい恥ずかしい。
乳頭ねえ、乳頭、にゅうとう……乳頭蛇尾、なんつってな。

………………
…………
……

と、若い衆に混じってシレっとした顔で、梱包作業をしながら、
僕はこのようなことを考えていたのです。

で、分からないままにしておくのも悔しいので、
お手軽にウィキペディアで調べたところ、
「乳頭――乳首の別称」
ですって。

これを見た瞬間は、なんだか煙にまかれたような気分で、
ちょっとそれはオジサン納得いかねぇなあ、オイ。
とは思いましたが、
ちょっと冷静になって考えてみれば、
「首級」とか「首無し死体」とか「首が飛ぶ」……とか、
首を頭を含めた物として言うことありますからね。

でも手首とか足首とかは「頭に当たるモノ」があるじゃん。
何で乳首だけ違うのよお……
まあ乳首の上に「頭に当たるモノ」があっても嫌だけどさ、
だったらなにも無理に「首」の字を使わなくてもいいじゃない。

こういった類のことは「そういうもの」として僕たちは泣き寝入りするしか
ないんでしょうか。
それが大人ってやつなんでしょうか。

あぁ、すっきりしないなあ。

……と、言うわけで今週も早速行ってみましょう。
『仏蘭西少女開発回想録』は今回で最後です。

<仏蘭西少女開発回想録第23回(最終回) 2009.06〜>

2009年6月。
『仏蘭西少女』の開発はいよいよ大詰めを迎えていました。

考えられる打てる手は全て打ち、
使える人間と時間は全て使い、
いわゆる「修羅場」という状態がこの6月でした。

この最終局面の月でも、
BGMがなぜか予定数より多く上がって来たりとか、
連続で2発までしか撃てないデリンジャーを舞子が5〜6連発していたりとか、
あぁ、いつまでたっても「祝婚2」のエンディングが見られない……とか、
様々な出来事があったような気がしますが、
それらの出来事を正確に思い出すことが出来ません。

月並みではあるんですが、
「とにかく大変だった」
と、そういう時期でしたね。

そして迎えたマスターアップの日ですが、
この日の気分はさすがに覚えています。

何しろ未曾有のシナリオ、リソース(素材)のボリュームのゲームですから、
「終わったーーーっ!」
というよりも、
「え……終わった……の?」
という方が正直な気持ちでした。

よくシナリオなんかで使われる「現実感が無い」というのは、
こういう感覚なんでしょうか。

この現実感の無さは大きく2つの側面があるような気がします。

ひとつは開発上の手応えです。
原則的にデバックというものは「不具合が無いことを証明する」という、
理屈で言えば終わりの無い作業です。
たとえ目の前のバグ報告を全て処理しても、次の瞬間にまた新たなバグ報告が来ない、
という保証はどこにもありません。

それでも、通常のボリュームのゲームであれば、
「これだけの時間と人数をかければ安心できる」
という経験に即した基準があり、そういったもので手応えを得るものなんですが、
この『仏蘭西少女』のシナリオ量と選択肢・分岐の多さは、その基準が通用しない。
手応えがいつもと違う。
そういった意味での現実感の無さがありました。

もうひとつの側面は荒縄猫太氏(『仏蘭西少女』の初代企画・ディレクター)と
丸谷先生が、この企画を立ち上げてから10年近くの月日が経っている事。
永らく「もうこれは完成しないんじゃないか」と思われていたものだったので、
その開発が終わった、という事実をうまく飲み込めなかった、というのはあります。

この現実感の無さは、今でも続いています。
散々方々で言ってきた10年という開発期間に見合った感慨、というものは、
結局感じられないまま今に至ります。

ただ、これまでこの『仏蘭西少女開発回想録』に書いてきた通り、
『仏蘭西少女』にまつわるこの10年は本当に様々なことがあり、
その年月や出来事を1本のソフトの完成をもって始末する、消化する、
というのもちょっとムシのいい話なのかな、とも思います。

長い間回想録を書いてきたのに、
なんだか最後がうまく纏められないのは悔しいですが、
当事と今の正直な気持ちは、こんなところです。

それでは、長い間ご精読ありがとうございました。

<終わり>

『仏蘭西少女』の開発に関して聞いてみたいことがあれば、
下記のメールアドレスまでメールして下さい。

france_info@franceshojo.com

2010/10/29

●  丸谷秀人のつぶやき千里・第33回

 友人達と飲んだあと二次会になって、カラオケにでも行こう、と
いうことになったのだった。あんまり馴染みのない町ではあったけ
どカラオケはどこにでも転がっていたので、ぶらぶら歩いていたら
駅から少し離れた繁華街の外れあたりに見つかった。
 いざ入ろうということになった時、誰かが気づいた。
 『歌うな』と太いサインペンで書いてある貼り紙が、店の入り口
にでかでかと張ってあるのだ。
 
 カラオケで『歌うな』とは面妖である。
 
 陸上競技場に『走るな』と書いてあったら困る。非常に困る。走
り幅跳びや棒高跳びでも助走してはいけないのか、競歩ならいいの
か、欽ちゃん走りならいいのか、それとも普通に走っては駄目だが、
競技としてなら走っていいのか。係員は移動の時走ってはいけない
のかそれとも競技の補助として動く時には走っていいのか、そもそ
も走るというのは時速何キロ以上なのか、などなど疑問が湧いてし
まう。そんなに疑問が湧いていては競技にも集中できない、それと
もそういう困惑を乗り越えてなお競技に集中する強者だけが勝利で
きるといういましめなのか。もしかしてらここは走らない競技のみ
をやる専用の競技場なのか。
 同様にエロゲーのパッケに『登場人物はすべて18歳以上です。
ちなみにエロゲーをプレイしてはいけません』と書いてあったら大
いに困る。眺めて想像しろという事だろうか。つまりそのパッケー
ジは想像力をブーストするアイテムなのである。エアーエロゲーで
ある。斬新だが売らないで欲しいのだ。
 
 そもそもわざわざ禁止しているという事は、注意書きがなければ
その行為を行う人間が多数いるということだ。大企業の本社の未来
的こじゃれたオフィスビルに行って緊張感一杯で廊下を歩いていた
ら『廊下は走るな』という貼り紙が張ってあったら、それはつまり
その会社では貼り紙がなかったら廊下を走る社員が多数いるという
ことだ。それとも、昔廊下を走っていた社員のせいで大惨事が起き
たのだろうか。廊下でぶつかった社員が玉突き事故を起こして、ど
ういうわけが幹部の過半数がお亡くなりになったとか。この貼り紙
が『山田一郎は廊下を走るな』だったらどうか。その山田一郎とい
う奴はとにかく走るのだ。いつでも全力疾走だ。貼り紙を貼ってお
かないと『わーいわーい』と言って廊下を走るのだ。困った男であ
るがちょっと見てみたくはある。つまり困った男なのだがクビにな
らないのだ。『山田君は廊下を走ることさえなければ、デキル奴な
んだが……』と言われているのだろう。それともデキルわけではな
いが彼が無邪気な振る舞いを見せることで、社内の雰囲気が明るく
なったりするのだろうか。なら走るくらいいいじゃないか。これが
更に『社長は廊下を走らないでください』だったら、ちょっと事態
が変わってくるかもしれない。なにしろ走る社長なのである。しか
もこんな大企業のトップなのにである。もしかしたら廊下を走るの
が成功の秘訣なのかもしれないではないか。業界紙のインタビュー
で『成功の秘訣ですか。簡単ですよ。廊下を走ることです。常に
全力で』だとすると、社長を見習って社員はいつも全力疾走。廊下
では衝突事故が多発。その結果、社長はじっとガマンの子で走らな
いのだ。そのうち社長が走るための専用の廊下が出来るかもしれな
い。いや、すでにあったりして。そこでは常に社長が走っているの
である。
 だが、ここはカラオケである。カラオケに来て歌わない人、とい
うのは、幾ら人間に無限の可能性があると言っても少数派である事
は間違いない。
 
 つまりここは、カラオケに来て歌わない少数派のためのカラオケ
なのではないか。
 
 歌わない彼らはカラオケで何をするのか。それはもちろん各人の
自由である。ひたすら受験勉強をしてもいいし、仮眠をとってもい
いし、持ち込んだ本やマンガを読んでもいいし、会議をしてもいい
バンドの練習をしてもいいかもしれない、18禁ゲーム的行為をす
るのだって自由なのだ。なんせ歌ってはいけないのだから。だが、
なぜそれなら図書館やスタジオや自宅やマンガ喫茶でなく、カラオ
ケでそれらの行為をしなければいけないのか。彼らは歌は歌いたく
ないがカラオケは好きなのだ。あの閉鎖された空間に入ると落ち着
くのだ。もしかしたら胎内回帰願望が強い人達なのかも知れないと、
知り合い友達の祖父さんのカラオケ仲間のフロイトさんが言ってた。
 もしかしたら、カラオケに来て歌わない人達の専門店であるこの
カラオケ店は、ここ一軒なのかもしれない。非常にニッチな産業で
はあるが、一軒しかないなら十分元が取れるのであろう。それとも
私が知らないだけで、こういうカラオケ店は幾つもあるのだろうか
チェーンだったりしたらびっくりである。
 
 というような事を当時考えたかと言えば、そんな事はなく、なん
か面白そうだから入ってみよう。という事になり入ることになり、
ごくごく普通にカラオケをした。歌い始めた途端、店員がやって来
て『お客様、誠に申し訳ありませんが、当店では歌を歌ってはいけ
ない事になっております』とか言われたら面白かったが、そんなこ
ともなかった。がっかりである。その貼り紙以外何も印象に残らな
いくらいにごく普通のカラオケだったのだ。
 
 今、考えてみると、あの貼り紙にはなんの不思議もなかったのか
もしれない。つまり、店の立地は繁華街の外れ、つまり住宅街の近
くで、カラオケ前にもちょっとひっかけ、カラオケでもしこたま飲
んで、いい機嫌になった人が、カラオケを出て人を待っている間な
どに大声で歌う事が度重なったのだろう。それで近所から苦情が来
たのだろう。で、あの面妖な貼り紙となったのだ。つまらない。
 
 だが、本当にそうなのだろうか。
 もしかしたら、基本的には歌わない人達専用のカラオケであり、
その夜は、たまたま客がいなかったから、受け入れてもらえただけ
かもしれない。それとも応対したアルバイトが新入りで、自分が勤
めている店が『歌わない人のためのカラオケ』である事を知らなか
っただけかもしれない。となればあとでそのアルバイトはこってり
絞られ、場合によってはクビにされたかもしれない。だとすると、
悪いことをしたものである。
 
 最後にひとつだけ言いたい。
 
 『歌うな』はないだろう歌うなは。


2010/10/22

●  『仏蘭西少女開発回想録』 第22回

みなさんこんにちは。
ストーンヘッズディレクターの三ツ矢新です。

ちょっと前の話になってしまいますが、
先日『仏蘭西少女』絡みのインタビューで、
久しぶりにTonyさんの話を聞いてきました。

※このインタビューの詳細に関しては、OKが出次第、
 アナウンスさせていただきたいと思います。

『仏蘭西少女』はご存知の通り開発期間が非常に長い作品だったので、
Tonyさんが手がけた絵の中には、3年、4年、ものによると
それ以上前に描かれたものもあるわけですが、
その当時何を意識して描いていたのか、であったりとか、
描いてる時の感覚などを結構覚えていて、
インタビュワーの問いにもスラスラと答えられていたのが印象的でした。

シナリオライターであれば、
自分の過去の作業はテキスト――言葉として残っているので、
昔の資料を読み返せば当事の考えていたことなんかは思い出しやすいだろう、
とは思いますが、原画家の場合は絵だけですからね。

テキスト的な資料はあったとしても
(例えばラフ画の横にフリーハンドで書いてあるメモ書きとか)、
シナリオライターのそれに比べれば微々たるもので、
絵の記憶、線の記憶、みたいなものは、言葉としては残らず、
感覚的なものをどこまで覚えていられるか、ということだと思います。

絵を描かない身としては、その感覚というのは未知の世界で、
例えば引退したプロ野球選手が、
何年も前の1試合、1打席の感覚を今でも覚えている感じに近いのかしら?
……と想像してみるくらいがせいぜいです。

でも、だからこそ、原画家さん、作曲家さん、声優さんなどの話は、
いつ聞いても面白いものだと改めて思いました。

というわけで今週もさっそく行ってみましょう。

<仏蘭西少女開発回想録第22回 2009.04〜>

デバッカーも増員し、いよいよラストスパートにかかった『仏蘭西少女』の開発ですが、
この時期は、ゲームで使用する各種素材を最終的にプログラムで使う形にする作業も並行して行います。
余談ですが、この作業を現場では「FIXする」とか「固める」とか言います。

『仏蘭西少女』では、特にイベントCGでのこの作業が混迷を極めました。
元々シナリオ量に対して絵素材のカット数が絶対的に少ない状況でしたので、
多少追加カットを足したところで、全てのシーンをフォローできません。

そうなるとどうするかというと、
1つのキャラクターの絵に対して、複数の背景差分を用意して、
異なるシーンで使うことになります。

それだけであれば、他のタイトルでもよくあることですが、
『仏蘭西少女』では、丸谷先生の緻密なシナリオも相まって、
パターン数が雪だるま式に増えて行きました。

一例を挙げてみましょう。
あるCGに以下の差分があります。

・背景……2種類
・服装……4種類
・表情……5種類
・その他……3種類

単純に順列組み合わせで行くと、2×4×5×3=120……ということで、
1枚の絵に対して120枚の差分があることになります。

当然、シーン毎に明らかにありえない組み合わせもあるので、
馬鹿正直に全て作ることはありませんが、
それでも『仏蘭西少女』では上記のカテゴリーの中の種類がいちいち多いんですね。

例えば背景。
場所が違う2種類の背景があって、2パターンで済むかというとそうでもなく、
昼夕夜の時間帯や、「赤い草が生えているかいないか」「織田桐邸の荒廃具合はどの程度か」
などもあり1つの場所でも複数パターンの差分が存在することもあります。

例えば服装。
『仏蘭西少女』では主人公の政重くんが、
結構服を破いたり脱がせかけたり、はっちゃけたことをしているので、
「着衣」「着衣乱れ」「服装破れ」「下着」「裸」などこれまたパターン数が増えます。
いっそのこと、脱がすなら脱がすで一気に裸に剥いてくれればどれだけ楽か!

さらに『仏蘭西少女』に限らずPILの作品では避けて通れない、
「傷跡・縄跡」「蝋」「血」「ピアス」「首輪」などのSM的小道具もあります。

イベント絵でついていた傷が、立ち絵で消えていてはおかしいので、
それも併せて作ります。

あっ、今回は仮面舞踏会もあったんだ。
仮面差分も作らないと……
えっ、仮面舞踏会では香純の下着が普段とチガウ?
ああ、そうだった、そうだった。
作りますよ、はい、今作ります。
ああ、このシナリオでは舞子は自分のピアスを主人公に渡してるのか、
じゃあ外したの作らないと……え、右じゃなくて左?

……とまあ、こんな調子でした。

後になって冷静に考えてみると、
ちょっと無謀な量だったかなとは思いますが、
当事は金山会長からのシナリオ修正全ツッパ指令も含め、
「せっかくここまで作ったんだから」という気持ちで、
作れる差分は全部作ろう、という気持ちでやっていたと思います。

それにしても、今見直してみてもすごい量ですね。
つい「よくやるわ……」と他人事のような呟きが漏れてしまいそうで、
この作業に付き合ってくれたスタッフには頭が下がります。

<続く>

『仏蘭西少女』の開発に関して聞いてみたいことがあれば、
下記のメールアドレスまでメールして下さい。

france_info@franceshojo.com

2010/10/15

●  『仏蘭西少女開発回想録』 第21回

みなさまこんにちは。
ストーンヘッズディレクターの三ツ矢新です。

すっかり秋ですね。
秋と言えば、秋の夜長の長電話。
……という話は先週したので、今回は別の話を。

秋の夜長とエロ漫画。

ちょっと確認して欲しいんですが、
みなさんのエロ蔵書の中に、
「いつ、そしてなぜ買ったのか他人に説明できないエロ漫画なりエロDVD」
はありませんか?

僕はあります。
「食はB級でも構わない。だがエロ関連はグルメでありたい!」
と常日頃思ってはいるのですが、不本意ながらあるんですよ。

全て秋の夜長のせいです。

夜が長いと大変なんですよ奥さん。
ちょっと油断すると、
普段なら「ふぅん?」と横目で見るだけの、
買うつもりもないコンビニのエロ系雑誌なんか出来心で買っちゃったり、
ネットショップで「カートに入れる」ボタンをついつい押してしまったりするんです。

特にこういう週末の夜がヤバイですね。

エロゲー稼業にカレンダーの暦はそれほど影響されないんですが、
カレンダーの日付の色が赤だったり青だったりすると、
ほんのちょっとだけ、心に隙みたいなものができるんですね。
(締め切り直前を除く)

週末の疲れと、翌日が休日であるという油断。
小難しい文庫本をがっつり読む気にはなれません。

かといってすぐ布団に入れるかというと、
まだそんな時間じゃないよねえ?
と、そういう感じです。

ポイントなのは、
別に取り立ててムラムラしてるわけでもないんですよ。
でも買わずにはいられない。

一旦表紙やサンプルCGで気になったものが目に付くと、
“買って中の全てを確かめないことには、どーにも気が済まなく”
なるんですね。

これは理屈ではないんですよ。
「そんなものに騙されるものか。どうせ中見たらがっかりするんでしょ? ハァン?」
という、過去の幾多の経験則から導き出された理性の声はバッチリ聞こえてるんです。ええ。

でもくやしい買っちゃうぅぅぅ!!

まさに魔性の時間帯。
個人的に逢魔が時というのは、この時間帯のことを指したいくらいです。

全て秋の夜長のせいです。
……ということで今週も行ってみましょう。

<仏蘭西少女開発回想録第21回 2009.04〜>

さて、設計図を引き、これを実践すればゲームが完成!
というとこまでこぎつけて作業はスタートしましたが、
開発現場と言うのは一事が万事、準備万端というわけにはいかないのが常です。

具体的にいえば、
  • まだ上がって無い素材がある
  • 設計図通りの人数・日数で作業が終わるかどうか分からない
といったところです。

1は、基本は待つしかない。
でもゲーム本体の締め切りが迫ってますから、
リミットは区切るんですね。
○日までに上がってこなかったら、無いものとして考える。
これが無かったとしたらどうするか、というのはある程度事前に目星はつけておきます。
しかし、中には「無かったらどうにもならない」という素材もあるわけで、
そういうものはもう、目の色を変えて催促するしかないですね。
もう1日に何度も電話して、欲しいものから順番に確実に上げてもらう感じになります。

2に関しては、設計図の段階では、
これまでの経験という名のデータに基づいたおおよその人数や時間ですから、
どのタイトルの開発でも、やってみないことには実際の進行速度が分からない部分があります。

なので、最初の数日のデータを見て修正します。
ここで上がって来た実際の進行速度(作業量)を見て、
「このペースで行くと、このくらいの日に終わるのか」
という数字が具体的に出てきます。

中には、その日がマスター予定日からはみ出してしまうものも出てきます。
『仏蘭西少女』くらいのボリュームになってしまうと、
この局面で1人や2人が頑張ったくらいでは挽回できないくらいの物量でなので、
人を増やすしかない。

じゃあ増やそう、ということになるんですが、
ここで玉突き事故みたいなことが起きるんですね。
人を増やす、と言っても、当然技術の居る作業の場合は出来ない人には任せられないわけで、

例えばAという作業で人が足りない、
じゃあ今Bの作業やってるチームから出来る1〜2人を回そう、
そうするとBの作業の人数が足りない(当たり前です)……
こういう作業チームの再編成をしていくと、最終的に足されるのはデバッカーになります。

デバッカーもある種の技術職なので、向いてる人、適性のある人というのは
居るには居るんですが、他の作業よりは数でカバーできる部分があるので、
フラグチェックに異常に適性の高い1人(ラジオやスタッフルームに出ていた新人の樹人君です)
だけは外さずに、新しく4〜6人くらい人を足しました。

ここで新たな問題が。
人を増やす、というのは言うのは簡単ではありますが、
4〜5人となると、今度は物理的なスペースが足りなくなってくるんですね。
開発室の。

早い話、座る席と机が無い。
PCやモニターであれば、最近はレンタル等で対応できるんですが、
開発室のスペースはどうにもならない。

……というわけで、一時的に会議室を潰してデバックルームにしました。
僕の知る限りストーンヘッズ史上一番開発室人口密度が高い瞬間だったんじゃないでしょうか。

このように作業を進めていったわけですが、
一番頭を悩ませたのがグラフィックの差分の処理でした。
この話は、また次回にお話ししたいと思います。

<続く>

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2010/10/08

●  『仏蘭西少女開発回想録』 第20回

みなさまこんにちは。
ストーンヘッズディレクターの三ツ矢新です。

季節はすっかり秋ですね。
秋といえば、秋の夜長に長電話ですよ。
相手は丸谷先生。

話の詳細は書けなかったり忘れてしまったりしてるので、
省きますが、唯一覚えている単語は「エアSM」ですね。

エアSM。

どっちが言い出したのか忘れましたが、
なかなかいい響きで、個人的にツボに入りました。

エアギター、エア焼肉、エア参拝、エアグルーヴ……等等、
「エア界」にも色々あるようですが、
傍から見たもの侘しさや情けなさが味であろうこのエア界に、
なんの違和感も無くすっぽりと入り、
無限のポテンシャルを秘めたこの単語。

みなさんも想像してくださいよ。イマジンですよ。
秋の夜長にですね、可憐な女の子がですよ、
ふとした衝動に駆られて、部屋で一人エアSMにふける姿を。

ことがSMですからね、そりゃ学校や会社じゃ大っぴらに話題に出来ません。
そのくらい彼女にだって分かってるんです。
だから友達も少ないでしょう。

でも好きになっちゃったんだから仕方ないでしょう。
それがたまたまSMだったというだけで。
たまに口裏を合わせてノーマルな趣味の話に加わってみても、
虚しさだけが募ってしまうワケですよ。

で、たぶん一人でコツコツその手の動画を収集して、
憧れだけが肥大していくわけですね。
いつか私もこんなプレイがしてみたいと。

でも相手もいないし、リアルで探すのもちょっと怖くて二の足を踏む。
そんなもどかしい日々ですよ。

で、そんな子が誰も見てない部屋で、
ふとした隙に、ついついやってしまうエアSM。

どうですか、萌えませんか?
いじらしいじゃありませんか。
物悲しいじゃありませんか。

萌え……ませんか、そうですか。

……と、いうわけで、今週も行ってみましょう。

<仏蘭西少女開発回想録第20回 2009.04〜>

音声収録も終わり、残す作業は上がってきた素材を使って演出をつける
スクリプト作業と、2000箇所を超える条件分岐のチェックを含むデバック作業です。

普通のサイズのゲームであれば、
この段階で、大体終わりが読めるんですね。大雑把に。
何週間くらいでこの段階までいって、
それからこのくらいでマスターアップかな、
何かのトラブルがあって進行が押しても+○日くらいでカタはつくだろう、
みたいな。

ところがこの『仏蘭西少女』では、その読みに自信が無かったですね。
上で2000箇所を超える条件分岐、と書きましたが、
このゲームは何を数えるにしても、千とか万とかそういう
今まで聞いたことのない単位が出てくるものでしたから。

一応計算はするんです。
各作業ごとに1日に進む量を、全体の量で割れば、
だいたい終わる時期の数字は出てきます。

ただ全体の量が増えれば増えるほど、
誤差というか、ノイズの量は増えていきます。

例えば10こなす時に出るミスが1だとして、
それが100になれば10で、1000になれば100……
だと話は早いんですが、実際の現場は往々にしてそうはいきません。

これが規模的に一度でも経験したことがあれば、
完全に一致しないまでも、以前の経験をベースにして
ある程度の予測は出来るんでしょうが、今回はそれも出来ません。

事前に人を増やしたりして、
出来る限りの備えはしたつもりですが、
やはり6MBという未体験ゾーンに不安は隠しきれませんでした。

ただ不安だ不安だと言っても始まらないのもまた事実。
机の上で計算だけしても、手を動かさないことには終わらない。

取りあえず計算を元に各スタッフに作業を割り振って、
いよいよ完成に向けた作業をスタートさせることにしました。

<続く>

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2010/10/01

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