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● 丸谷秀人のつぶやき千里・第80回

 フリーになってから喫茶店というものと非常に縁がある。
 打ち合わせで外出すると、大抵行き先はそこだからだ。
 喫茶店は実にいっぱいある。ちょっと油断すると雑居ビルの2階からこっちを見下
ろしていたり、つい先日までアンティークショップがあったはずの場所になにくわぬ
顔でうずくまっていたりする。町中喫茶店だらけである。新しく店が出来た場合の七
割はチェーンの喫茶店かチェーンのコンビニという感じだ。だが待てよ。チェーンで
ない喫茶店はあるけれど、チェーンでないコンビニというのはあるのだろうか? チ
ェーンのないコンビニは単なる雑貨屋のような気がする。では、チェーンがある雑貨
屋がコンビニなのだろうか? それも何か違う。
 こういう時は辞書の登場だ。検索エンジンの辞書へGO!
                                      
《コンビニエンスストア》
 食料品・日用品を中心に扱う小型スーパー。住宅地に近接、長時間営業などの便利
さを提供するのが特徴。コンビニ。
                                      
《雑貨店》……なし《雑貨屋》……なし。
《雑貨》……あった!
 日常生活に必要なこまごました品物。「―店」
                                      
 なるほど。日常生活に必要なこまごました品物を扱う店が雑貨店なのか。ってコン
ビニやん! まぁいいやコンビニはこの際、問題は喫茶店だ。
 なにが問題かといえば、大した問題ではないのだけど、どうしてああもチェーンの
喫茶店は似かよってるのだろう? そりゃ店名はみんな違うし、働いている人間も違
って制服もちょっとずつは違ってる。だけど印象はひどく似ている。印象というか雰
囲気。ケーキも食事もドリンクも出るけれど、それ目当てでくるほどではない味。し
かもその内容は品数においてファミレスより遥かに少ない。そして周りを見ても、が
っつりした食事を食べている人はほとんどいない、というか、そもそもそんなメニュ
ーがない。ちなみに私はああいうところで出てくるトーストが好きだ。一番簡単な奴
がいい、ドリンクのオマケで妙に安いのもいい。軽いのもいい。だが別にそれ目当て
ではない。ではなぜボクらは喫茶店へ行くのか。打ち合わせのために。
 確かに周りを見回せば、なにかの打ち合わせをしている人ばかりで、当然、そこに
いるボクらもそのうちのひとりだ。みんな仲間。妙な連帯感。こんなに席が近いのに、
周囲の会話が邪魔にならないのは、絶妙な距離感で席が配置されているからなのか?
それとも人間は所詮、他者に大した関心がないことの証明か。これがテレビの9時辺
りからやる安っぽいサスペンスなんかだと、偶然重要な会話を聞いたりして、娘を強
姦して殺した犯人がわかってしまって復讐に走ったりするのだ。大抵最後は崖の近く
とか山の頂上だとかひとけのない場所になる。そこで犯人と探偵役の人間が対決する
この探偵役が刑事なんかだと大抵なんだかなー、な結末になる。
 復讐に走った父親に対して、本当の犯人を捕まえられなかった刑事が、それでも人
殺しはいけないだの、そんなこと娘さんは望んでいないだの、エラそーに説教をかま
すのだけれど、お前らがちゃんと犯人つかまえときゃいいんじゃん! と言いたくな
る。そもそもなんで亡くなった被害者の気持ちをお前が勝手に決めつけられるんだよ。
娘さんはお父さんが復讐してくれて喜んでるかもしれないじゃないか。
 それとボクは言いたい。もういい中年や下手すりゃ老年の犯人に向かって、罪を償
ってやり直してください、とかね。あのね。理由はどうあれ人殺しなわけで、しかも、
ああいう番組の場合、派手にするために複数は殺してるわけで、となると結構長く喰
らうはめになる。出て来たら中年は老人であり老年は出て来られないかもしれない。
やり直せないじゃないですか。無責任なこと言うなよそこの刑事! そんな安手の説
教にがっくりと膝をついたり、ナイフを手から落としたりするなよ犯人! 自分の頭
で考えて欲しい復讐するは我にありの気概が欲しいです。あと自殺する時は、刑事の
目の前で薬ビンを取り出すのはやめてください、止めて欲しいんですか?
                                      
 ってなんの話でしたっけ? そうそう喫茶店の話です。喫茶店にはプライバシーが
あんまりないハズなのに、みなさん大した警戒もせず声高に喋ってる不思議について
でした。ちなみに江戸時代の料亭は仕切りが薄かったので、隣の座敷の会話は筒抜け
だったそうです。もっとも料亭どころか女郎屋でも長屋でも全てにおいて薄かったの
で、おかっぴきは情報を集めるのに苦労しなかったとか。壁に耳あり障子に目あり。
まぁ本当に秘密を守りたい人は会議室を使うという手があります。実際、会議室で打
ち合わせをすることもあるけど、会議室の時と喫茶店の時に話す内容に何か違いがあ
るかと言えば……あまりない。凌辱ゲーの打ち合わせをする時は会議室、萌えゲーの
打ち合わせをする時は喫茶店……ってこともない。萌えゲーでもエロゲーなので、エ
ロシーンについて声高に話すしね。
 なんてことはどうでも良くて、つまり大事なのは似てるということだ。だからしば
しば待ち合わせ場所を間違えてしまうという事故が起こる。おかしいなおかしいな、
この店のハズなんだけど……と1時間ばかり待ったあと、待ち人の姿を求めて片っ端
から喫茶店を覗くはめになったことが何度もある。1度なんか、前に打ち合わせをし
たのと同じ場所だから見れば判るハズだと思っていたら、何軒覗いて見てもピンと来
ない、というか、みんな打ち合わせをした場所のような気がしてくる。メニューまで
そっくりだ。大抵、ケーキ、サンドイッチ、コーヒー、紅茶、そして味もほとんど変
わらない、もっと差別化するべきなんですよボクのために! ボクが迷わないために!
そうでないと、また次の打ち合わせでも相手を求めて彷徨う未来が。
 携帯を使えばいいという方もいるでしょう。だけど、そういう場合、大抵携帯は家
に置いて来たりしてるんで――
                                      
 いや、待てよ。
 これって携帯さえ持っていればいいってことじゃないか。
 携帯を家にしょっちゅう置いてくるせいだったのか。
 なんだボクが粗忽でドジで間抜けなだけか。
 ごめん喫茶店。
 真犯人もわかったところで、これにて一件落着。


2014/11/21



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